基礎教養の情報処理(ITリテラシー)科目の視覚障害学生の受講について(主に教職員向け)


ゆにでは、視覚障害学生の情報処理(ITリテラシー)クラスへの参加について問い合わせをいただくことがあります。ここでは、主に教職員の方に向けて、基礎教養としての情報処理科目について、サポート体制の整備や授業の進め方等を検討する際にポイントになると思われることをいくつか記します。
なお、具体的な対応方法は、科目内容や学生個々の状況、各大学の情報環境等により異なります。また、以下で示す考え方は、情報処理を専門に学ぶ科目の対応には当てはまらない部分もあります。より具体的な情報や体制整備のサポートが必要な場合は、お問い合わせください。

前提:目的、到達目標

日々の学習や研究、卒業後の就労等、生活のあらゆる場面で情報処理技術の活用が重要になることは、視覚障害学生も同じです。画面がまったく見えないユーザーであっても、文書やプレゼンテーション等の作成、表計算、ネットサーフィン、メール送受信はもちろん、プログラミング等の高度な処理を行うことも可能です。多くの視覚障害者が、学習・研究や就労等に情報処理技術を活用しています。情報処理技術を活用することで「見えない・見えにくい」部分を補うことができる場合も多いことから、特に視覚障害学生にとって、情報処理技術が社会参加の強力なツールになる側面もあります。基礎教養として情報処理を学ぶ(広い意味での)目的や到達目標は、視覚障害学生を含む学生全体に共通するものであることを、まず確認しておくことが重要です。

視覚障害学生のパソコン利用方法と特長

スクリーンリーダーを用いてキーボードで操作

画面が見えないユーザーは、画面の文字情報を音声で読み上げるソフトウェア(スクリーンリーダー)を用いて、マウスを使わずにすべてキーボードで操作することが多いです。

画面拡大ソフトウェアや外付けモニターを使用する学生も

弱視のユーザーのなかには、画面表示を拡大するソフトウェアを使用したり、OSやアプリケーションの画面表示設定をカスタマイズしたり、ノートパソコンに外付けのモニターを接続したりして、個々の見やすい表示環境に調整してパソコンを利用する場合があります。また、それらとスクリーンリーダーを併用する場合もあります。

スクリーンリーダーが読み上げるのは「文字情報」のみ

スクリーンリーダーが音声で読み上げるのは原則としてテキストデータ(文字情報)のみです。見た目上は文字として表示されているものでも、画像データ(jpeg、透明テキストが入っていない画像のみのPDF等)は基本的に読み上げません。したがって、テキスト情報のないアイコンや、文字が画像データで入っているアイコン等は中身を読み上げません。
*スクリーンリーダーのなかにはOCRで画像を機械的に日本語認識して読み上げるものがありますが、そうした機能を用いても、OCRの特性上正確に読み上げできるとは限りません

読み上げやキーボード操作が不可能な場合がある

画像データの他、アプリケーションやウインドウによっては、スクリーンリーダーによる音声読み上げやキーボード操作が不可能な場合があります。第三者による画面の読み上げや操作の補助、別のアプリケーションを試す等の対応が必要になります。

時間がかかることがある

画面の状況の把握や操作に時間がかかることがあります。特に、スクリーンリーダーユーザーも弱視のユーザーも、「画面全体を見渡す」ことが難しく、1つ1つアイコン等をたどるように操作しなければ確認や操作ができないことがあります。授業中に作業指示をする際はこの点を考慮することが必要です。

習熟度には個人差がある

音声読み上げや画面拡大、キーボードを用いた操作については、視覚障害学生自身がそれらを十分に習得できていないことがあります。これは、学生自身の得意・不得意ということとは別に、そうした操作について学生自身が学ぶ機会を得られていないことによる場合があります。

対応のポイント

視覚障害学生の受講に際して、各大学等では、補助者の配置や授業進行の配慮、個別指導への変更等の対応が行われています。望ましい対応についてはケースバイケースですので、ここではそれら対応を検討・実施する上での基本的な考え方をいくつか例示します。

「方法」を柔軟に

前述の通り、視覚障害のあるユーザーも情報処理技術を十分に利用できますが、キーボード主体の操作等、一般的な方法とは異なる方法を用いる必要があることがあります。したがって、そもそもの授業の目的や到達目標を見据えた上で、その達成に至る具体的な方法(習得させる操作方法等)については、一般的な方法にとらわれず、音声読み上げやキーボードにより操作可能な方法等に柔軟に調整することが求められます。

主体的に活用する力の習得

視覚障害学生にとって、音声読み上げやキーボード操作が不可能な場面での操作、視覚的な表現のコンテンツの処理等、視覚障害に伴ってどうしても難しい部分はあります。一方で、自力で操作できないことでも知識として知っておけば、自力では難しい部分について他者に協力を求めながら、主体的に情報処理技術を活用することができます。学習や研究、就労等のあらゆる場面での情報処理技術の活用においては、そうしたスキルが役立つことが多くあります。

事前の検証

授業実施に際しては、予定している内容のキーボードでの操作方法や、スクリーンリーダーの読み上げ可否等について、当該視覚障害学生の操作方法で対応可能かどうかを事前に確認・検証しておくことが望ましいです。

<検証ポイントの例>

  • マウスを使わず、Tabキー、Shift + Tabキー、Altキー、カーソルキー、Enterキー、Spaceキー等を用いて操作が可能か
  • 操作に「ショートカットキー」が設定されているか
  • 操作や確認が必要なアイコンが「画像」のみのアイコンになっていないか 等

第三者が補助する場合

以下のような補助内容が考えられます。なお、補助対象の学生が「すべてキーボードで操作する」場合、補助者もキーボードでの操作方法を(授業前に予め調べる等して)理解しておくことが望ましいです。

  • クラス全体にマウス操作前提の説明がされる際に、キーボードによる操作方法を個別に伝達
  • スクリーンリーダーで読み上げない、弱視の学生が見えない・見えにくい画面の読み上げや状況説明
  • マウス操作等、視覚障害学生の自力での操作が難しい部分の操作
  • 弱視の学生の場合、画面の必要箇所の指し示しやマウスポインタ移動の補助
  • 教員の指示通りの操作ができない場合、全体進行から遅れた場合等の教員への状況伝達

視覚障害学生がパワーユーザーの場合

視覚障害学生自身が、音声読み上げやキーボードを用いての操作方法等を調べたり、自力で操作できる部分とできない部分を自ら判断して表明したりといったことに長けている場合もあります。そのような場合は、常時補助者を配置するのではなく、当該学生から要請があったときにだけ適宜補助できるようにしておくという対応も考えられます。

進行の配慮

前述したように、視覚障害学生はその操作方法の特性上、他の学生に比べて作業に時間を要することがあります。補助者に個別対応を依頼する場合であっても、補助者に任せきりにすることなく、担当教員が適宜状況を確認することが重要です。

チームアクティビティ等

グループでのプレゼンテーション等、複数名で協力しての情報処理技術の活用について扱う場合は、視覚障害学生もそのチームの一員として役割を担う機会を保障することが重要です。補助者を配置したり個別指導をしたりしている場合、この点には特に留意が必要です。プレゼンテーションの構成の立案、コンテンツの文字部分の作成、発表原稿の執筆・読み上げ等、当該学生が担うことのできる役割それ自体をチームで検討するというのも1つの方法です。

課題(宿題)・テストを課す場合

音声読み上げやキーボード操作が難しいもの、画像や視覚的な調整を要するものは、単独での実施が難しいことがあります。そのような課題については、当該学生が操作可能な部分に集中して取り組んでもらう形にする、代替課題を課すといった対応が必要です。また、その場で実施・提出させる場合等では、所要時間の配慮が必要になることもあります。

<課題調整の例>

プレゼンテーション作成の課題で、文字部分は完成させ、画像やアニメーション等の視覚効果については、どの部分にどんな視覚効果を入れるかを第三者に指示するメモを作成
→情報処理技術を用いて、自分で難しい部分は「他者の協力」を求めながら目的を達成する力を身につける

参考資料

スクリーンリーダー

  • PC-Talker:日本で最もよく利用されているスクリーンリーダー
  • JAWS for Windows:世界各国で利用されている高機能のスクリーンリーダー
  • NVDA:無料・オープンソースのスクリーンリーダー
  • ナレーター:Windows標準搭載のスクリーンリーダー(Windowsキー+Ctrlキー+Enterキーで起動)

画面拡大ソフトウェア

  • ZoomText
  • 拡大鏡:Windows標準搭載の画面拡大機能(Windowsキー+「+(もしくは「;」)」で起動)

視覚障害者のパソコン利用についての情報